10月27日(月)に建築家の中村竜治氏の特別講義が行なわれました。

プロジェクトを始めるときは、いつも素材探しから始めるそうです。中村さん自身がリサーチし、実験し、プロジェクトが実現できるように試行錯誤をしていくそうです。そのあとにどのように多くの人をつかい制作していくかを考え、システム化をして多くの人と一緒に制作をしていくそうです。これを実現するためには、こうしようなどと必然性が生まれそこから問題解決の糸口が見つかるそうです。プロジェクトの展示が終わり、搬出するときも穴をみるとかバラバラに解体したものを写真にとってみるなど、常に探究心があるのがとても印象的でした。

中村氏は東京藝術大学大学院修士課程修了後、青木淳建築計画事務所を経て、2004年に中村竜治建築設計事務所を設立しました。中村氏の仕事は、多岐に渡り、住宅や店舗設計の他にも展示会の展示空間、美術館でのインスタレーション、舞台美術などを手がけています。
様々な幅広い活動をされている中村氏の特別講義から一体学生はどのようなことを感じとるのでしょうか。
講義には、外部からも多くの方にご参加いただきました。ありがとうございました。
中村さんのスライドレクチャーは、アイデアの元になっているモチーフ別にプロジェクトを説明していく構成になっていました。そのプロジェクトを紹介する前に、中村さんの考えの基本になっている2つのことをお話いただきました。
1つ目は、"形と向き合う"ということです。機能から形を発想するのではなく、形から機能を生み出すということで、形が何を生み出すのかを観察することが大切なのだそうです。
2つ目は、"敷地と向き合う"ということです。建物だけではなく、インテリアや展示にも敷地があるということを理解することが必要だそうです。
中村さん自身、幼少期から家の形がとても気になっていたそうで、それが建築家になるきっかけになっていたのかもしれないと講義後、お話されていました。
まず最初のモチーフは、"直線"です。直線は、線によって中が見えるものと見えないものがあり、物との距離感が変わるものだそうです。中村さんの著書の本に"コントロールされた線とされない線"があります。興味のある方は是非読んでみてください。
6面に違う色を塗り、360度からみると様々な色に見えるというベンチです。6色に塗っても人が動きこのベンチを見ることで、色が混ざり合い6色以上の色に見えます。そして、無機的で幾何学的な金属の格子に人が色鉛筆で色を塗り分けることで、その質の違いの対比も魅力的なベンチになっています。
これは、伸縮性のポリウレタンの糸を4000本ほど床から70cmのところに張り巡らせ糸の面を作った作品です。中村さんの講義にはよく"空間を切り取る"ということばがでてきたのが印象的だったのですが、このプロジェクトもその要素があります。70cmの高さで空間を切り取ることでいつも空間はいつも曖昧に見ていたものがよく見えるようになるそうです。それだけではなく、高さの意識が生まれたり、隣にいる人との距離感も変わってきます。
とうろこし畑という作品です。この作品は、直線で構成さたものを通してみる景色の違いというものを体感するプロジェクトです。講義を聞いていてとても計算しつくされた構成だと思ったプロジェクトの一つで、この作品は、大きな直角三角形で構成されているのですが、角度を30度、60度、90度と変えることで、全体像が分からないようにしているとのことでした。さらに、この作品をオブジェではなく空間でみせるために大きなサイズにしたということです。学生は、作品を制作する上で、このプロジェクトのように、形もサイズも全てのことに意味のある構成にとても学ぶことが多かったのではないでしょうか。


映像のプロジェクトです。映像を構造体をスクリーンとして映した作品です。細いピアノ線をつかい見えないスクリーンに映像を映すというプロジェクトです。映像は2Dだけど、構造体に映ったプロジェクターの軌跡で3Dに見えるという言葉が印象でした。
直線の他にも波板、輪、たわみ、反りなどモチーフ別のプロジェクトを紹介していただきました。そして、展示の会場構成についても空間の使い方を軸にお話をしていただきました。

モチーフごとに丁寧に形について、そしてその形をどのように考えてプロジェクトに発展させていくかなどをプロセスを説明しながら講義を行なってくださいました。中村さんのことばは、シンプルですがとても強く心に残ることばが数多くあり、いろいろなことを考えさせられました。"見え方の違うトロフィー"、"柱の間のみ成立する椅子"、"見える範囲の操作"、"空間を切り取ると2D化される"、"見る見られるの関係性"、"オブジェ+空間=敷地をどう考えるか"、"窓が定規の役割"、"強調と省略"、"重力はどこでも普遍的に働いているので、誰もが共感できる要素"などはっとさせられるような中村さんの独自の感性や感覚が言葉になり、ものの見方を考えさせられる講義でした。
みんなの感性はどのように刺激されたでしょうか。お忙しい中、遠方から来ていただき、2時間にわたる長時間の講義を中村さんありがとうございました。(R)